研究紹介:両親媒性分子水溶液のゾル-ゲル挙動解析
(散逸粒子動力学法を用いたシミュレーション)
by 鳥海 遼
具体的な研究内容のご紹介の前に触れておかなければならないことは、私が行って
いる研究が実験ではなく「シミュレーション」であるということでしょう。シミュレーション
というと、現実世界で起こる現象の「再現」というイメージが強い方もおられるかと
思います。事実、そのような立場でシミュレーションが用いられることも多いようです。
しかし、シミュレーションが企業や研究のプロジェクトにおいて強い影響力をもつのは、
おそらく「再現」ではなく「予想」であるときなのだと思います。つまり、「実際に
視られないものを視る」ことが重要なのです。
図1.シミュレーションのイメージ図
もちろん、「予想」である限り、いくら精緻なコンピュータをもって計算したとしても、
その信憑性は常に疑われるものです。そもそも、実際の現象を構成する粒子の動きを
全て追跡することは(原理的にも計算のコスト的にも)できないわけで、シミュレーションを
するには必ずなんらかの近似(モデリング)を施さねばなりません。では、シミュレーションに
妥当性をもたせるにはどうすればいいか?私はその答えの一つとして、
「実験とのフィードバック」が挙げられるのではないかと思います。そしてまさにこれが、
私がシミュレーションを用いて研究している意義でもあると考えています。
図2.ゾルとゲル
さて、では具体的な話に移ります。私は現在両親媒性分子のゾル-ゲル転移を
シミュレーションで解析するという研究を行っています。両親媒性分子というのは、
親水部分(水に溶けやすい)と疎水部分(水に溶けにくい、親油性とも)の構造を
両方自らの一部分として持っているような分子のことです。ある種の分子では、これを
水に溶かして温度を変化させると、ゾル(流動状態)とゲル(固体状態)を可逆的に
転移することがわかっており、さらにその中でも一風変わった挙動を示すものが
実験で見つかっています。「ではこのような転移のとき、水溶液の中では何が起こって
いるのか?」、よし、これを調べてみよう、というわけです。特に、私が的を絞って
考えているのは:
・ 分子の構造が変化したときに、ゾル-ゲル転移の挙動がどう変わるだろうか?
・ 水溶液中でどのようなメカニズムによりこの転移が起こっているのか?
の2点です。最近はある程度まとまった結果が得られてきました。実際に実験によって
現象を調べている研究室のメンバーと話し合うことにより、シミュレーションには妥当性を、
実験には考え方の提案をもたらすという両者の間の相互作用を意識しつつ、研究を進めています。