研究紹介:両親媒性分子溶液の自己組織化に関する
分子ダイナミクスの解明
by 関 大河
水と油・・・このふたつは全く混ざり合うことがなく、その様子は非常に仲が悪いことの例えに用いられるほどです。食卓でサラダ用のドレッシングのビンを振って混ぜることはよくあるかと思いますが、少し放っておくとすぐに水分と油の2層に分かれてしまいますよね?このように、水と油はそのままではすぐに分離してしまいます。
では、水と油を完全に混ぜ合わせる方法は無いのでしょうか?実は、その答えは石鹸や洗剤、マーガリンなど、私たちの非常に身近なところに隠れています。これらには両親媒性分子(図1)が含まれているという共通点がありますが、その両親媒性分子が溶媒中でどのように機能するかを図2に示しました。両親媒性分子は水になじむ親水基と、水にはなじまず油になじむ疎水基の2つのパーツからできています(図1)。それを水や油などの溶媒中に入れておくとミセルと呼ばれる集合体を形成することがあります(これは自己組織化の一種です)。洗剤の界面活性作用やマーガリンにおける乳化剤の効果は、このミセルが油や皮脂汚れを内包することで実現しているのです。
両親媒性分子 油
両親媒性分子の自己組織化は、温度や濃度、せん断などの条件の違いで、形成される集合体がさまざまに変化します(図3参照)。しかしながら、このような構造変化は非常に小さなスケールで発生しているため、実験的に確認することが難しく、まだまだわかっていないことがたくさんあります。そのため、どのような条件を与えたときに、どのような構造変化が見られるのかを調べることには大きな意義があります。
私の研究テーマはこの両親媒性分子の自己組織化において、濃度、温度、せん断等の条件がミセル集合体の構造にどのような影響を及ぼすかを調べることです。本研究は泰岡研究室と日本総研(株)と協力して進めており、研究の手法として現在は主に散逸分子動力学というコンピュータ・シミュレーション法を用いています。これによって実験では観察が難しい自己組織化の動的挙動を再現することに成功しました。また、これまでの結果からせん断は自己組織化に対し興味深い影響を与えることがわかってきました。現在はシミュレーションのみによる研究ですが、今後は実験も同時進行で行い、実験とシミュレーションの2つのアプローチで研究に取り組んでいく予定です。