研究紹介 : ポリマーとダイヤモンドライクカーボンフィルムとの
密着性に関する研究
by 中村 佑真
堀田研究室で扱うポリマー材料には様々なものがあります。ポリマーの中では最も
簡単な構造をとり包装袋や食品包装などに用いられているポリエチレン(PE)、
ペットボトルの材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)、メガネに使用され
ているポリメタクリル酸メチル(PMMA)、他にも皆さんの聞いたことも無いような
ポリマーがたくさんあります。これらのポリマーはプラスチック、もしくはゴムと
して皆さんの身の回りの中にあふれています。しかし現実の産業において使用される
ポリマーは決して多くなく、だいたい五大汎用樹脂と呼ばれるものに生産が集中して
います。これは生産量拡大によってこれらのポリマーが廉価となったこと、また
物性的にもかなりの領域をカバーできてしまうことが大きな理由です。
図1 PEの実用例
私の研究は、五大汎用樹脂と呼ばれる範疇に属するポリエチレン(PE)とポリプロ
ピレン(PP)が中心です。この二つのプラスチックにはある共通点があります。
それは共に接着性が乏しいという点です。例えば、水道配水用ポリエチレン管の
場合、管をつなぐ際にはEFソケットといって、樹脂を溶融して接合するという面倒な
方法を取っています。接着の応用技術が航空宇宙機器、自動車、医療、包装など、
様々な産業分野に応用されていることを考えると、この性質のせいでこれら二つの
汎用プラスチックの応用範囲が限定されてしまっているということはいうまでもあり
ません。そこで、この問題を解決するために表面改質技術の1つである薄膜蒸着を行う
ことを考えました。その薄膜こそがダイヤモンドライクカーボン(DLC)フィルムです。
DLCは右図のようにダイヤモンドとグラファイトの中間の構造を持つ物質であり、
PEやPPと同じく炭素と水素から構成されているため
両者の相性が良いと期待されます。
図2
ダイヤモンドライクカーボンの構造
その結果、あるポリエチレンの接着性は劇的に向上したものの、ポリプロピレンの
接着性はほとんど向上しないことがわかってきました。そこで私の研究では、
ポリマー基板とDLCフィルムとの密着性に影響を与える因子の解明に取り組
みます。
ポリエチレンとポリプロピレンのそれぞれの表面状態を比較することを中心に研究を
進めていきます(図3)。またPPとDLCの密着性を向上させるためにエッチング処理
といった前段階を踏んだ後にDLCをコーティグするといった実験も行っていき、最終的
には、ポリマー全体と硬質薄膜の接着性について議論していければ、と考えてます。
図3 DLCをPEからはがした後のPE表面観察
(PEの繊維が引っ張られている)
「ナノフィブリル化」