研究紹介: エレクトロスピニング装置を用いたPDMSナノファイバーの作製と物性評価

                             by 中野 篤史

 近年,「ナノテクノロジー」という言葉を良く耳にします.このナノテクノロジーとは,ナノ領域(1 nm = 10−9 m)で物質を自在に制御する技術を指し,物質をナノサイズに小さく加工するトップダウン型の技術と,原子や分子の配列を操り新しい性質の材料を産み出すボトムアップ型の技術の2つに大きく分けられます.私の研究は前者のトップダウン型で,物質をナノサイズに加工する研究を行っています.

 さて,物質をナノサイズに加工する利点は何かといいますと,身の回りのあらゆるものを軽量に,小型化させる事が可能となります.例えば,携帯電話やパソコンの中の部品をナノサイズにできれば,現在あるものを驚異的に小型化する事もできますし,同じ大きさで容量を飛躍的に増量させる事も出来ます.また医療の分野においても,超小型化させた船に薬,センサーなどを載せ,血中を通って目的とする患部や部位に遠隔操作で直接運ぶという,SFさながらの構想も本気で考えられおり,現実味を帯びてきています.

 

そして私は,今まで述べたような携帯電話,パソコン,医療機器など我々の生活のあらゆる場所に使われている「ポリマー」のナノサイズの加工する研究を行っています.このようなポリマーにナノレベルの加工を施すための一つの装置として,エレクトロスピニング装置というものがあります.この装置を模式的に表すと下図のようになっています.ポリマー溶液を注射器のようなものに入れ,先端の針と反対側の基板との間に高電圧をかけます.すると基板側に薄い膜が得られ,走査型電子顕微鏡で観察すると,それが1本1本が直径数百ナノオーダーのポリマー糸から成っていることが分かります.

 

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このようなナノファイバー膜を用いて,空気,汚水などを浄化する分離するフィルター,ウイルスを遮断するようなマスク,再生医療における細胞培養基板(人体と同程度の表面粗さのため,細胞付着が良い),色素増感太陽電池(表面積が大きいため,太陽光の吸収量が多い)などに利用する事が考えられています.しかし,この装置は開発されてからまだ月日が浅く,未だに多くの研究がなされていません.現在私はPDMS(ポリジメチルシロキサン)という,まだファイバー化に成功していない材料をファイバー化させる事に注力しています.そして最終的にはファイバー膜を完成させ,物性評価をして,上述したような応用例として利用できればと思っています.堀田研にとって新規のテーマということで,手探りな部分も多々ありますが,未知の部分を開拓していくという非常にやりがいのあるテーマだと感じています!